絶対領域
「なら俺たちも手をか……」
「ノープロブレム」
あず兄の申し出を、長髪の男の子が即座に拒んだ。
彼の切れ長の目が、よりいっそう鋭くなる。
「結構だ。ユーたちの手は必要ない。ユーたちはどうぞご勝手に、そこのか弱くなったプリンセスを守ってやればいい」
あぁ、そうか。
彼は落ち着いているように装ってるだけなんだ。
本当はオールバックの男の子と同様に……いや、それ以上に憤っている。
不意に視線を感じて、たどたどしく目を向けた。
長髪の男の子の、隣。
彼以上の傍観者だった男の子がいた。
ふわり、と冷たい風にお互いの髪がなびく。
ミステリアスな雰囲気を纏う、あの男の子から、目を離せなかった。
「……っ」
何か言いたそうにしているのに、何も言わない。
ドクン、ドクン。
彼を見つめていると、胸の裏側がざわめく。
不思議だ。時が止まったかのような気分になる。
彼は、私にとって、どんな人だったんだろう。
きっと、見つめ合ったのはわずか数秒だった。
気づけば、長髪の男の子が黒髪の男の子をおぶって、病院へ連れて行ってしまっていた。
オールバックの男の子、気弱そうな男の子、ミステリアスな男の子も。
屍と化していた人たちの半分も、この領域からいなくなっていた。