絶対領域




あず兄の横には、しん兄もいる。


怒鳴り散らして、お店の中でも外でもはた迷惑なあず兄に、しん兄は他人のフリをしながら呆れかえっていた。




「無理やり萌奈を連れて行きやがって……!」


「はははっ、すまない」


「笑ってんじゃねぇよ!!」



窓ガラスの存在を忘れるほど、あず兄の声量がどでかい。

うるさすぎる。


こっちがシリアスでもあんなにはしゃいでいたギャルたちでさえ、「鬼やば」「ウケる~」とこちらを窺っていた。



「2人とも電話しても出てねぇし!」


「え?電話?」



今更、2人してカバンから携帯を取り出し、確認してみた。



「ほ、本当だ……」

「気づきもしなかった」


履歴がすごいことに……。



すぐさま携帯をしまった。

現実逃避だ。




「デートなんかやめろ!さっさと店から出てこい!!」


「ではそうするか」



あっさり賛成され、あず兄の勢いが失速していく。


あ、デートの部分、訂正しないんだ。




「トーキングし終え、萌奈氏のことも知れたゆえ、目的は達成だ」


「オウサマが満足したならいいよ」


「付き合おうてくれてありがとう、萌奈氏」


「オウサマとのお話、楽しかったよ」




オウサマは荷物を担いで、先にレジへ向かった。



ちゃっかりレシートを持っていくんだもんなぁ。


時々垣間見える紳士さに、キュンとしちゃったよ。

なんか悔しい。



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