絶対領域
「ぅ、ぐぐぐっ……!」
手足が痛くなってきた。
気を抜いたら、自転車に引かれちゃいそう。
感覚が麻痺してきたところで、すぅ、と短く空気を吸い込む。
火事場の馬鹿力で、全身を奮い立たせた。
「っっ!!!」
指先と顔を赤くさせて、ローファーの底を擦り減らせて、全力で自転車を押した。
次第にタイヤの回転が鈍くなっていく。
やがてゆっくりと、止まった。
カゴはやや歪んでいた。
「……よ、よかった……」
「ブラボー!よくぞストップさせてくれた!」
思ったよりオウサマの声をクリアに聞き取れて、振り向いてみたら。
数メートル先に、オウサマと男の子がいた。
こ、こんなに接近してたんだ。
危ない危ない。ぎりぎりセーフ。
ホッと安心する私に、女性は自転車から降りて、何度も頭を下げてお礼を言ってくれた。
「本当に本当にありがとうございました!」
「い、いえ、そんな、全然……!」
「助かりました!」
「無事でよかったです。あ、でも、カゴがちょっと……」
「いいんです、カゴなんて!この自転車、元からオンボロでしたから」
女性はオウサマにも頭を下げ、男の子に謝ってから、この場を去っていった。
自転車には乗らずに、歩いて。