絶対領域
事故にならなくてよかった。
あっちでもこっちでも大騒ぎになるところだったよ。
平和が一番!
自転車の下敷きになったカバンを取りに行く。
うわ……ボロボロ。
タイヤの跡がしっかり残っている。
「カバンをあのように使用してよかったのか?」
「よくはないけど……まあ、仕方ないよね。事故を防げて、このカバンも誇らしいでしょうよ」
「……うむ、確かに。そうであるな」
カバンについた砂や汚れを、パンパンッと軽く払い落とした。
うん、これで大丈夫。
綺麗になった。まだ使える。
カバンを肩にかけると、天パの毛先をクイッと弱々しく引っ張られた。
びっくりした!
何だ!?
視線を斜め下に転がす。
「あの……た、助けてくれて、ありがとう」
照れながらもぶっきらぼうに告げてくれたのは、自転車に巻き込まれそうになった小学生の男の子。
うろうろ泳がせた両目は、私を捉えずに、灰色の髪で陰を作っている。
昔のせーちゃんみたいだな。
「ケガしてない?」
「うん」
「ならよかった」
「兄ちゃんが守ってくれたから」
「そっか、オウサマが守って…………え?」