絶対領域




「あ、紹介していなかったな。これは我の弟だ」



お、やっと返答してくれた。




「『これ』って言うな!」


「さっ、自己紹介したまえ」


「……仁池稜、です」


「あ、えっと、どうも矢浦萌奈です」




唐突に始まった自己紹介タイムに、お互いどぎまぎしてしまう。



オウサマと稜くんは8個差なんだっけ。

ということは、稜くんは今小学3年生くらいか。


こんな小さい子がもっと小さかった頃に、残忍な悲劇を目の当たりにしたんだよね。



『記憶喪失なるものになってしまったのだ』



先ほど明かされたばかりのお話を、めまぐるしく回想していた。



綺麗さっぱり忘れてしまった記憶は、きっと今でも悲痛めいていて。


だからオウサマは、あず兄やせーちゃんも顔負けするくらい、家族を溺愛して守っているんだろうな。




無意識に稜くんをじっと見つめすぎていた。


そのせいか、わざとらしく俯かれた挙句に、両目を片手で覆われた。



そんなに嫌だった?お姉さん、ショック。




「……い?」


「え?」


「き、気味悪い……?」



変声期を超えていない、少年らしい高い声。


か細く震えていて、より高く聞こえる。



悲しそう、とは感じなかった。

けれど、なんとなく、強がってる気がした。




< 418 / 627 >

この作品をシェア

pagetop