絶対領域
「あ、紹介していなかったな。これは我の弟だ」
お、やっと返答してくれた。
「『これ』って言うな!」
「さっ、自己紹介したまえ」
「……仁池稜、です」
「あ、えっと、どうも矢浦萌奈です」
唐突に始まった自己紹介タイムに、お互いどぎまぎしてしまう。
オウサマと稜くんは8個差なんだっけ。
ということは、稜くんは今小学3年生くらいか。
こんな小さい子がもっと小さかった頃に、残忍な悲劇を目の当たりにしたんだよね。
『記憶喪失なるものになってしまったのだ』
先ほど明かされたばかりのお話を、めまぐるしく回想していた。
綺麗さっぱり忘れてしまった記憶は、きっと今でも悲痛めいていて。
だからオウサマは、あず兄やせーちゃんも顔負けするくらい、家族を溺愛して守っているんだろうな。
無意識に稜くんをじっと見つめすぎていた。
そのせいか、わざとらしく俯かれた挙句に、両目を片手で覆われた。
そんなに嫌だった?お姉さん、ショック。
「……い?」
「え?」
「き、気味悪い……?」
変声期を超えていない、少年らしい高い声。
か細く震えていて、より高く聞こえる。
悲しそう、とは感じなかった。
けれど、なんとなく、強がってる気がした。