絶対領域
『やっと見つけたぜ、緋織』
おずおずと振り返れば。
後方にいたのは、一人の男。
さっきのナイフは、あの人が投げつけてきたの?
『さすが脱走者なだけあって、逃げるのがうめぇのな』
ニヒルな笑みをこぼされる。
男の首筋と左腕に、服の下から入れ墨が覗いていた。
脱走者って、何?
『でもまさか、女連れとはな。やるじゃねぇか、ガキのくせによ』
『だからって初っ端からこいつを狙ってんじゃねぇよ』
『そりゃ狙うだろ。お前の弱点なんだからよ』
オリは私を背中に隠し、睨みを利かせた。
路地中に冷気に似たものが立ち込める。
……弱点。
私が、オリの。
ガツンと思い切り頭を殴られた感覚に陥る。
反論したくても、できない。
確かにその通りだ。
私がオリの負担を増やしてる。
そんなの、嫌だよ。
『お前も随分最低だな。極道の端くれだっただけあるわ。元、だけど』
『……何が言いたい。挑発なら無駄だ』
極道?
脱走って、極道からってこと?
初めて殺気というものを肌に感じて、全身が震える。
そのせいで、聞きたいことを聞けもしない。
怖くて、もどかしくて。
情けない自分に、腹が立つ。