平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「ディオンさま。早く湯浴みをするか、乾かさないと風邪をひかれます」
「困ったな。桜子から離れたくない」

 桜子の肩からは腕が外されたが、手は握られたままだ。

 甘く笑みを浮かべるディオンに、桜子の気持ちが揺らぐ。

(ここにいるのは、ザイダのお礼と謝罪のため。ディオンさまの魅力に流されてはダメ)

 桜子は自分に言い聞かせてから、ディオンに握られている手を顔の前まで持ってきた。そしてもう片方の手を重ねる。

「ディオンさま。ザイダのこと、ありがとうございました。信じていなかった私を許してください」

 桜子はまっすぐにアメジストの瞳を見つめて口にした。それから、わざとらしさを見せないよう、ディオンの手から両手を外した。

 桜子の心の距離をディオンは悟る。

(サクラの心の壁は、まだ崩せないようだ……)

 ディオンはフッと笑みを浮かべた。

「サクラ、謝る必要はない。そなたの望みはなんでも叶えてあげたいのだから」
「ディオンさま……なにも持っていない……迷惑ばかりかけている私にそう言ってくださり、ありがとうございます」
「そのように身構えられると……悲しいな。権力を使ってサクラを意のままにしようなどとは思っていないから、安心しろ」

 ディオンは桜子の気持ちをくみ取っていた。無理強いをしたくないディオンだ。

「そんなこと……」

 自分がディオンに惹かれていくのが怖いのだ。ディオンの魅力はどんどん桜子を惹きつけていく。


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