平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 その光景を目の当たりにしてしまい、桜子は喉の奥から「ひっ!」と絞り出すような声を漏らした。

「サクラ?」

 支えていた身体が小刻みに震えだしたことに気づいたディオンは、桜子を見る。桜子の顔がみるみるうちに紙のように蒼白になる。

(死んでいるの……?)

 そこで桜子は悟る。この世界では平気で人を殺せるのだ、と。

 殺人事件はテレビの中の出来事だと思っていた。人が切られて死んだのを見たのは初めてで、急に胃から込み上げてくるものがあった。

「うっ!」
「サクラ?」

 口に手を当てた桜子は、急いでディオンから離れて扉に向かった。

 突然駆け出した桜子の後を追ったディオンは、庭に出たところで、彼女が吐いて嗚咽を堪えているのを目にする。

「来ないでっ!」

 桜子は吐いている姿をディオンに見られたくなかった。

「サクラ……そうなるのも無理はない」
「ううっ……」

 吐いて胃の中が空っぽになっても、せり上がってくるものがある。

 ディオンの手が桜子の背中に添えられた。

「部屋へ行きましょう」

 茫然自失の桜子はディオンに立ち上がらされ、ふらふらと自分の部屋へ戻った。


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