平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 ゆっくりしている時間はなかった。ディオンが薬に強ければ、すぐに目覚めてしまうかもしれない。

 そうなったら桜子の計画はすべて水の泡になってしまう。ディオンは全力で桜子を守ろうとするはずだから。
 
 桜子は厩で葦毛の馬に乗り、追われるようにアシュアン宮殿を出た。皇都の方向はわかっている。
 
 早くアシュアン領から離れなければと、馬の速度を上げた。
 
 馬の背で涙が止まらなかった。しかし、涙を拭くのはあとにする。落馬したくなかったからだ。
 

 二刻後、桜子は皇都に入った。途中、出会った人に道を尋ねながらだ。
 
 黒髪はスカーフのような大きな布で隠しており、桜子が目立つことはなかった。

(もう少しで着く……)

 そう思うと心臓が痛いくらい跳ね上がり、早鐘を打つように暴れてきた。

 巨大な門の前には、衛兵がズラリと並んでいる。桜子は少し手前で馬から降りて、手綱を引っ張りながら衛兵に近づく。

「なんだ? お前は?」

 衛兵の前で立ち止まった怪しい女に、衛兵は鋭く問いかけた。そこで桜子はハッとなる。ルキアノス皇帝からの書簡を持っていない。

「あの、私はアシュアン宮殿から参りました、サクラと申します。ルキアノス皇帝に呼ばれてやってきました」

 こんな言葉で衛兵が信じて、ルキアノス皇帝の元まで行けるのか。桜子はイアニスから書簡を盗んでこなかったことを後悔した。

「お前、『はい。そうですか』と、皇帝陛下にすんなり会えると思っているのか!?」

 衛兵は呆れながら桜子を叱責した。

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