平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「ディオンさまっ!」

 桜子の身体を片手で抱きしめたディオンは、ルキアノス皇帝に鋭い眼差しを向ける。

「戦わず、すんなりとここまで来られました。私を捕らえるための罠ですか?」

 厳しい口調で問うディオンに、桜子は腕の中で首を左右に振る。

「ディオンさま、違うんです。話は皇帝から聞いてください」
「サクラ? 違うとは?」

 長年の確執から、ディオンはルキアノス皇帝を信じられない。

「イヴァナ皇后に毒酒を飲まされかけたとき、皇帝は助けてくださいました」
「なんてことを! サクラ、怪我はないのか? 毒酒は一滴も口の中へ入らなかったのか?」

 抱きしめていた身体から、腕の長さ分を離し、ディオンは桜子の姿を調べるように滑らす。その光景にルキアノス皇帝は声を出して笑う。

「そなたがそのように心配する姿を見せるのは、アラーラ以来だな」
「……どういうわけなのか、話してください」

 ディオンは剣を鞘に戻し、桜子と共に腰を下ろした。
 

 長い話だった。空が暗くなり、月が輝き始めていた。

 ディオンの横で桜子は静かに聞いていた。ディオンの心の中は複雑であろうと推測する。

(ディオンさまは皇帝を許す……? 深い憎しみがあるせいで、それは無理かも)

 桜子にとっては、殺されかけたところを助けてくれた人だ。なんとかしてあげたいが、到底桜子が口を出してはならない問題である。

 そして、豪華な食事が用意された。

「アシュアンへ帰るにはもう遅い。今日は泊まっていくがいい」


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