平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 桜子は言われた通りそこへ行き、腰を下ろした。

「飽きたら、いつでも止めていいからな」

 ディオンは桜子にそう言ってから窓辺に座り、琵琶のような楽器を抱えるようにして弾き始めた。

(飽きたらって言われても、そんなこと……無理……)

 相手はこの宮殿の主なのだ。弾いている姿は神々しささえ覚える。

 美しい音色だが、じっと聴いていると眠気に襲われる。あくびを噛み殺しながら、目を閉じないように頑張る桜子だ。

 ディオンは楽器だけを見て弾いている。

(私がいてもいなくても、全然関係ないんだろうな)

 女子のために弾いていると言うディオンだが、本当のところは違うような気がしてくる。

 そんなことを考えていた桜子の瞼が閉じられた。
 

 桜子はフワフワ浮いている感覚に、パチッと目を開ける。ディオンの整った顔が目の前に飛び込んできて、あわあわと慌てる。ちょうど抱き上げられたところだった。

「も、申し訳ありません! 寝てしまいました! 下ろしてくださいっ」

 桜子は一気に頭がクリアになり、お姫様抱っこをしたディオンから下ろしてもらおうと身じろぐ。

「黙っていろ。弾いている中、眠られたのは初めてだ。飽きたら止めろと言ったが」

 ムスッとしたようなディオンの表情に、一刻も早く下りたい桜子だ。

(お、怒ってるみたい……)

 なにか言って、さらに怒らせたくはない。桜子はディオンの黄金のような髪を見つめ、部屋に着くように願う。
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