平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「殿下!」

 ディオンが女性を抱き上げたところを初めて目にしたエルマは、目を丸くして慌てた様子だ。それから彼女のブラウンの瞳がギロリと桜子を見る。エルマは明らかに憤慨している。

 思わず桜子は、問いつめるようなエルマの視線から目を逸らす。

 桜子は寝台の端にそっと下ろされた。

「あ、ありがとうございます」

 ディオンを前にすると、緊張してどもってしまう。

「サクラ、気を楽に。エルマ、お茶を」
「彼女の分だけでしょうか?」
「そうだ」

 丁寧な口調だが、桜子にはディオンの言葉に少し苛立ちが交ざっているように聞こえた。

 桜子は気のせいだと思い直す。

「かしこまりました」

 エルマは胸の前で腕をクロスさせ、膝を軽く折り、部屋を出ていった。

「外が暗くなってきた」

 桜子は窓のほうへ視線を向ける。

「そういえば……暗く……」

(また雷雨がやってくるの?)

 桜子の顔が顰められたが、ふいにディオンが顔を寄せてきてビックリする。

「もしかして、雷が怖いのか?」

 雷が怖いと言えばいいのに、ディオンの前では強がりたくて、首を横に振る。

「では、ゆっくり休め」

 ディオンはゆったりとした所作で立ち上がる。

「あの、さっきは申し訳ありませんでした。素敵な曲でしたが、私、音楽を聴くと眠くなるんです」
「いいんだ。私も眠くなる」

 ディオンは薄い唇を微笑ませて去っていった。

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