平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 盆を持っていた女官は急いでテーブルの上に盆を置くと、エルマを追うようにそそくさと去っていく。

「はあ……誤解なのに……」

 桜子は小さくため息を漏らし、椅子に座った。
 

 翌朝もエルマの機嫌は直っておらず、桜子とひとことも口をきかない。女官もそそくさと料理を用意して出ていく。

 扉が閉まるのを見て、桜子は肩を落とした。

(エルマがあんなに怒っているのは、ディオンさまが好きだから?)

 そんな風に思えてくる。

(でも無理もないか。ディオンさまにはここで働いている女性全員が惹かれるに違いない)

 桜子は朝食を終えて、湯殿へ向かう。

 後宮にも湯殿はあるが、それは妃が使う高貴な場所で、今は使われていない。桜子が使用するのは女官たちの湯殿だ。

 この時間は女官たちも宮殿の仕事に追われて、誰もいない。

 女官たちの中には、珍しい桜子の容姿に好奇心の目を向ける者もおり、身体や髪を洗っているときに見られるのが苦手でこの時間になった。
 
 いつまでもここで、のほほんと生活していてはいけない気がしてきており、内心焦っている。

(帰る方法なんて、まったくわからないのに……)

 家族のことを考えてしまい、しばらく涙が止まらなくなる桜子だった。

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