エリート御曹司は獣でした
八重子ちゃんは、私や久瀬さんと同じ第一課所属である。

けれども、そんなことがあったとは知らず、私は目を瞬かせるばかり。

彼女は、驚く私たちの反応を気にすることなく、話し続ける。


「それだけじゃないですよ」


先週、第一課の若者メンバー数人で、居酒屋に寄って帰ろうと話していた時に、退社しようとしていた久瀬さんが近くにいたから誘ったそうだ。

すると、『用があるんだ。ごめん、また今度』と言われたのだとか。

そんなやり取りは、過去に三回ほどあったとも聞かされて、私は「待って!」と八重子ちゃんの話を遮った。

久瀬さんがどうこうではなく、別の問題に戸惑ったからだ。


「私、同じ課なのに、仕事帰りの飲み会に誘われてないんだけど……」


「仲間外れなの?」と焦ったら、天然スマイルを浮かべた八重子ちゃんに明るく指摘される。


「奈々さん、いつも終業時間になったら、すぐ帰っちゃうじゃないですか。お肉が値下がりするからって。誘いたくても誘えません」


それは、確かに。

行きつけのスーパーマーケットは、十八時十五分頃に値引きシールを貼る。

そのため私は、終業時間の十八時になったら走って帰ることが多い。

値引き待ちの奥様たちに負けじと、安価な肉をゲットしているのだ。
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