エリート御曹司は獣でした
私に集まった視線はすぐに散っていき、久瀬さんも心配を解いた顔をして、四つ隣の課長に歩み寄り、声をかけている。

誰にも見られていないことを確かめてから、再度机の引き出しを開けた私は、チョコレート菓子を見つめて考え込んだ。


誰が、こんなことを……。


引き出しにビーフジャーキーやサラミをしまっていることを知っているのは、いつも一緒にお弁当を食べている三人と久瀬さんだけである。

久瀬さんは無断で女性の机を漁る人ではないので、犯人ではない。

八重子ちゃんも、違うと思う。

いいことであれ、悪いことであれ、なにかを企んだりしない子だ。

ただフワフワとタンポポの綿毛のように風の向くままマイペースに生きているのが、八重子ちゃんである。


消去法で考えると、怪しいのは香織と綾乃さんになってしまうが……。

ふたりが私に嫌がらせするとは考えにくいので、動機の推測に悩む。


ビーフジャーキーを会社に置いていることは以前、ふたりに話した記憶はあるけれど、業務時間中の二時間おきの肉チャージまでは打ち明けていない。

もしや、こっそり肉チャージしていることに気づかれて、仕事中は肉を忘れなさいという注意のつもりでしたことだろうか?

私の行きすぎた肉好きを心配し、女の子らしく嗜好をチョコに変えた方がいいという思い遣りからのすり替えかもしれない。
< 136 / 267 >

この作品をシェア

pagetop