エリート御曹司は獣でした
その時、斜め向かいでデスクワーク中の久瀬さんと視線が合ったので、彼からの差し入れかと勘違いし、『これ、ありがとうございます』と笑顔でお礼を述べたら、『俺じゃないよ』と言われてしまった。


『え、それなら誰が置いていったんですか?』

『さあ……見ていなかったからわからない。ごめん』


久瀬さんを謝らせてしまったことに焦りつつ、私は腹を立ててもいた。

これも、誰かのいたずらに違いない。

よく考えれば、差し入れしようという親切心だけを持った人ならば、飲みかけのペットボトルを持ち去ることはしないだろう。

『どうして新品になってるの?』という私の戸惑いを、犯人は期待したのだと推測される。

その狙い通りに困惑していたら、その後の昼休みに久瀬さんから、ペットボトルの紅茶とコンビニのビーフジャーキーの差し入れをもらってしまった。

私が勘違いしたばかりに、気を使わせてしまった……と申し訳なく思い、地味な心的ダメージを受けたのであった。


そう、この四日間で受けたいたずらは、どれもこれも地味で、嫌がらせと表現することがためらわれるほどの小さなものである。

それでも、笑って受け流すことはできない。

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