エリート御曹司は獣でした
「そんな人、いませんよ」と、私は真顔できっぱりと否定した。

悲しいことだが、モテないことには自信がある。

楽しそうに犯人を庇い立てするふたりに、もう少し事態を深刻に捉えてもらおうと、私はやや声を大きくして主張した。


「犯人には悪意がある。無料券の期限切れは、絶対にわかっていてやったことだよ!」


昨日で期限が切れたというところに、意地の悪さを感じる。

忘れ物でもして社に戻っていたなら、昨日のうちに無料券を使えたのに……と、私は後悔している。

おそらく犯人は、そこまでのダメージを見込んで、こんないたずらを仕掛けたに違いない。


「絶対に犯人を見つけてやるんだから。期限切れの無料券は、ゴミ以上に迷惑。なんで私が損した気分にならないといけないのよ!」


その悔しさを込めて、お弁当のテリヤキチキンに箸を突き立てたら、「えっ!?」と真後ろに驚いたような声がした。


「期限切れてました? 奈々さん、すみません。気づかなかったです」


そう言ったのは、係長のお説教から解放された八重子ちゃんで、訪問販売の業者から買ったサンドイッチとサラダを手に、ニコニコして立っている。

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