エリート御曹司は獣でした
決戦は日没時。

定時を十分ほど過ぎ、乗友さんが帰り支度をしているのを見た私は、自席で静かにノートパソコンを閉じた。

久瀬さんは、後輩社員からプランニングの相談を受けている真っ最中だが、立ち上がった私に気づくと、「帰るの? お疲れ様」と声をかけてくれた。


「いえ、ちょっと飲み物を買いに行くだけです」


嘘をついた私に彼は、目を瞬かせる。

財布もスマホも持たず、勇ましい顔をして飲み物を買いに行くとは、どういうことなのかと疑問に思われたのかもしれない。


彼の表情からそれが読み取れたが、『飲み物ではなくトイレです』と嘘をつき直している暇はない。

乗友さんが帰ってしまいそうなので、私は急ぎ足で西側のドアから部署を出て、東側のドアへ回る。

そして廊下で彼女を待ち伏せた。


すぐに出てきた乗友さんは、仁王立ちしている私とぶつかりそうになり、「キャッ!」と声を上げる。

「すみませーー」と反射的に謝りかけた彼女だが、相手が私だと気づくと、途端に迷惑そうな顔をして「邪魔よ」と冷たく非難した。


「乗友さんにお話があります」


私のその言葉と険しい表情だけで、彼女は用向きがわかったようだ。

けれども慌てることも悪事を隠そうとすることもなく、余裕の笑みを浮かべて言う。

< 151 / 267 >

この作品をシェア

pagetop