エリート御曹司は獣でした
「最近、調子に乗ってるんじゃない?」と指摘されたのは、仕事のことである。

私が久瀬さんにお願いして、ふたりでコンベンションセンターへ出かけたことを、彼女たちは知っていた。

課は違えど、同じフロアで働いているのだから、私の行動は少し調べればすぐにわかることらしい。


「新規の顧客を、自分が担当したいと駄々をこねて、久瀬くんを困らせたんですって?」

「自分にそこまでの実力があると勘違いしているようだから教えてあげるけど、一課の成績がいいのは久瀬くんがいるおかげよ。相田さんを含めた他の社員は出来損ないばかり」


乗友さんたちは二歩の距離を置いて、私を囲んでいる。

睨むのではなく楽しそうな顔つきで、ここが日頃の鬱憤の晴らし時だと張り切っているのではないだろうか。


久瀬さん以外は出来損ないだと、一課全員を批判する彼女たちに、『そこまで言わなくても……』と思いつつも、受けた心的ダメージはまだ浅い。

新規の顧客を担当したいと願い出たのは、久瀬さんの変身を解こうと思ってのことであり、本気で言ったわけではなかった。

そのことを記憶に残していた彼から後日、はっきりと断られたけれど、私はまだ半人前だという自覚があるため『わかりました』と頷いただけで、駄々をこねてもいない。

そのようなことを、乗友さんたちに反論したかったのだが……久瀬さんの変身に関わることなので、説明できずに黙っていた。

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