エリート御曹司は獣でした
彼を横目でチラリと見て、顎に拳を添えて考える。

もしこのままずっと、ポン酢による変身体質が治らなかったら、私はずっと恋人役でいられるのではないだろうか……。

ほんの少しだけズルイ考えが浮かんだが、それを正義の心で押し潰した。


ポン酢に苦しむ久瀬さんを救いたい……そこがブレては駄目だ。

彼を好きならなおさらのこと、自分の恋を優先するような卑怯者にはなりたくないから、絶対に治してみせる。


グッと片手を握りしめた私は、まだ私の体に腕を回している彼に小声で言う。


「きっともうすぐ治りますよ。順調に変身時間を短縮できているので。それまで、偽の恋人としてよろしくお願いします」


彼と顔を見合わせ、笑顔で頷き合っていたら、「イチャついてる……」という周囲の声が耳に入った。


そうだった。

大注目を浴びて、しかも朝礼が始まるところなのに、私はなにをしているのか……。


恥ずかしさに慌てて立ち上がれば、クスリと笑う声が背後に聞こえ、スッキリとした楽しげな声で「またな」と言われる。


久瀬さん、どうしてそんなに余裕なんですか……。


まだ騒めきが残るフロアで、私だけが顔を火照らせ、静まらない鼓動を感じている。

「すみません、すみません」と周囲に謝りながら、自席へと急ぐのであった。

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