エリート御曹司は獣でした
実際はそれほど高額ではなく、長野さんひとりにそこまでの決定権があるとは思えないけれど、大袈裟なことを言って久瀬さんを慌てさせようとしていた。


唇の距離は、わずか一センチまで近づいている。

そこでピタリと止まった彼は、眉間に深い皺を刻んで、「俺がなんとかしないと……」と呟いた。


その直後に「うっ」と低く呻き、私を放してよろよろと後ずさる。

マンションの壁に背を預けた彼は苦しげに呼吸を乱しており、五秒ほどしてそれがおさまった。


「戻った……」


疲労している彼に、「お疲れ様です」と労いの言葉をかけた私は、すぐに腕時計を確認する。

今回の変身時間は、一分十四秒。

ああ……残念。

前回は一分を切ったのに、今は戻るのが遅かった。

その結果を彼に伝えれば、「なかなか縮められないな」と残念そうにため息をついている。


「そうですね……」


順調だったのは、約三分だった変身時間を、二分まで縮めるまでの間である。

一分台に突入してからは、目覚ましい短縮は見られず、遅々とした成果しか得ることができずにいる。

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