エリート御曹司は獣でした
街路樹の桜がちょうど満開で、私の無地のワンピースや久瀬さんのお洒落なライトグレーのジャケットを、風に舞う薄紅色の花びらが飾ってくれた。


桜に見惚れて歩いていた私であったが、「あっ!」と声を上げて足を止めた。

片道二車線の道路の向こう側に、そそられる看板を見つけ、指をさす。


「久瀬さん、ジンギスカンのお店がありますよ! 北海道に来たからには、ジンギスカンを食べないといけないですよね」


「そうだな」と笑いながら頷いてくれた彼だが、「今、食べるわけにいかないよ。約束の十四時まで、あと十分ほどだ」とたしなめられてしまう。

それなら、小百合さんの自宅を出た後にと思ったが、一泊二食付きの温泉宿を予約しているため、ジンギスカンを食べれば宿の夕食が入らなくなってしまうことだろう。


「わかりました」と納得して足を前に進めつつも、後ろ髪を引かれる思いでジンギスカン屋を振り返ってしまったら、久瀬さんの大きな手が私の頭を撫でた。

隣を仰ぎ見れば、眩しげに目を細めた彼がクスリと笑っている。


「明日の昼食はジンギスカンにしよう。実は、評判のいい店を調べてあるんだ。他にも肉料理の名店をいくつかピックアップしてきたから、宿に着いたら相談しよう」


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