エリート御曹司は獣でした
心配になって彼を見れば、リビングへと先導して廊下を進む小百合さんの背中を、じっと見つめている。

その口元は、微かにほころんでいた。


憧れの気持ちを蘇らせているのかな……。


そう感じた私は胸にチクリとした痛みを覚え、心は不安に大きく揺れていた。


広々としたリビングに入れば、そこも高級感があって、L字形の白いソファには、南向きの大きな窓から柔らかな日差しが降り注いでいる。

お土産として持参した洋菓子と出産のお祝いの品を受け取ってもらい、勧められたソファに腰を下ろす。

お茶とケーキを出してくれた小百合さんは、並んで座る私たちの、角を挟んだソファの端に腰掛けた。


久瀬さんと彼女は、お互いの近況を教え合い、子供の頃の思い出話をする。

当たり前のことだが、私の知らない久瀬さんのエピソードが、彼女の口から次々と飛び出して、寂しい気持ちになってしまった。


私は遠慮した方がよかったかな。

ここまでついてこないで、近くの喫茶店などで待っていれば傷つかずにすんだかもしれない。


それでも笑顔でふたりの話に相槌を打ち、時々おどけた顔をして、陽奈ちゃんを笑わせる。

後悔や疎外感は、少しも表情に出していないつもりでいた。

それなのに、話の切れ間に小百合さんは、「昔の話ばかりしてごめんなさいね」と私に謝ってくれた。


「いえいえ、おふたりの話を聞くのは楽しいですよ。私のことはどうか、お気遣いなく」


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