エリート御曹司は獣でした
楽しいというのは嘘だが、気遣われたくないというのは本心である。

久瀬さんは、小百合さんに会いたくて、ここに来た。

ふたりの会話の邪魔をする気はないし、彼の笑顔を壊したくないのだ。


どうぞどうぞと遠慮する私に、小百合さんは好意的な笑みを向けてくれて、それから弾んだ声で言う。


「同僚をひとり連れていくと隆広くんに電話で言われた時、私、ピンときたのよ。おふたりはお付き合いしているのでしょう? 結婚するという報告を聞けるのかしらと考えていたわ。どう、当たってる?」

「ええっ!?」


それは深読みしすぎというものだ。

驚いた私は顔を熱くして、「違います!」と否定したが、久瀬さんの腕が私の肩に回され引き寄せられた。

目を丸くする私の耳元で、響きのよい誠実な声がする。


「結婚はまだです。でも、恋人なのはその通りです」

「く、久瀬さん」

また、“偽”が抜けてますよ……。


チラリと私に流された視線に色気を感じて、鼓動が高鳴る。

きっと、小百合さんの勘違いだと言えば、ただの会社の後輩をなぜ北海道にまで連れてきたのかと不思議に思われそうだ。

だから久瀬さんは、恋人だと言ったのだろう。


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