エリート御曹司は獣でした
女の私の目から見ても、張りと柔らかさを感じさせる美しい胸であったから、男性である久瀬さんは欲情しないわけにはいかないだろう。


そう予想して、恐る恐る隣を見れば、彼はぼんやりとしていた。

ソファに深く背を預け、テーブル上のコーヒーカップのエレガントな花模様を見つめ、考え事をしているようにも見える。

頬は赤くもなく、呼吸はゆっくりと静かで、興奮している様子は微塵もない。


あれ……久瀬さんも今のハプニングを目撃していたはずだよね。

憧れの女性の胸を、再び見てしまったというのに、動揺していないの……?


「久瀬さん……」と呼びかければ、「なに?」と彼は普通の調子で振り向いた。


「あの、平気そうなのが、おかしいと思いまして……」


正直に疑問をぶつけた私に、彼は吹き出した。


「そうだよな。俺もなぜだろうと、そこを考えていた」


別室にいる小百合さんに聞こえないよう、彼は声を落として気持ちを話してくれる。

思いがけず見てしまった彼女の胸に、あの頃と変わらず綺麗だという感想は持ったそうだ。

けれども、思春期の頃と違って、性的な関心は少しも湧かない。

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