エリート御曹司は獣でした
ゴクリと唾を飲んだ私は、真顔で彼に提案する。


「久瀬さん、ポン酢を買ってから宿に行きましょうか?」

「治ったと思ってるの?」

「その可能性を感じてます。久瀬さんは、そう思いませんか?」

「どうだろう、わからないな……。試してはみるが、まだ期待しないでおくよ」


駄目だった時に、余計に落ち込むことのないよう、予防線を張った彼。

けれども、その瞳には隠しきれない希望の光が表れていた。


小百合さんの自宅を出た後は、タクシーで五十分ほどかけ、札幌市の南側の山間に位置する定山渓温泉街にやってきた。

宿泊するのは、部屋数が五十ほどの温泉旅館。

数年前にオープンしたということで、館内は綺麗で新しさを感じるが、ロビーには囲炉裏があり、和の風情漂うレトロなオブジェも飾られているため、老舗のような落ち着いた雰囲気がある。


部屋は十畳と六畳の和室ふた間で、久瀬さんと一緒だ。

そのことを、ここに着いてから初めて知って驚いた私だが、ふた部屋取らなかった理由を彼に問えずにいる。

予約する前に、この旅館でいいかという確認はされたけど、細かな宿泊プランなど、その他のことは彼任せ。

ちなみに旅行に関わる費用も、彼が負担してくれている。

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