エリート御曹司は獣でした
偽恋人なので、なにかが起きるはずもないのに、頭の中には勝手にピンクの花が咲き、久瀬さんとの情事を想像してしまう。

私は欲求不満なのだろうか……。

なんてハレンチな女なのだと自分を非難しつつ、部屋の中を二十周ほどして、うろつく範囲を洗面所まで広げた。


洗面台の鏡に向かうと、いつもより多少、艶っぽい自分が映る。

それは、浴衣を着ているせいだろう。

女性用の浴衣は五種類の柄から好きなものを選べるようになっていて、私は街路樹に桜が咲いていたことを思い出し、白地に淡い桜が描かれたものにした。


右に左に体を向けて、着方がおかしくないかを確認する。

それから、化粧をしていないことを思い出し、顔に触れた。


久瀬さんにすっぴんを見られることを気にしたのだが、普段かなり薄化粧なのでさほど違いはなく、このままでいいことにする。

それに、寝化粧までして彼を待っていたら、いかがわしい展開を期待しているかのようで、すっぴんを見られるよりずっと恥ずかしい。


鏡に映る顔はほのかに赤く、両手でピシャリと頬を打って表情を引き締めた私は、自分を戒める。

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