エリート御曹司は獣でした
酔いが冷めたような驚きの声で引き止められたが、それを無視して電話切った私は、スマホの電源を落とす。

これでもう誰からも、かかってこない。


ホッと息をついたら、余計なことを言ってしまったことに気づいた。


ついムキになって、久瀬さんの名前、出しちゃった。

偽恋人なのに、どうしよう。なにかうまい理由付けを考えないと……。


困り顔で頭を悩ませたその時、ドアが開けられる音がして、大浴場に行っていた久瀬さんが戻ってきた。

本間に入ってきた彼を見ると、立て続けの電話による不愉快さはいっぺんに吹き飛んで、鼓動が跳ねる。


湯上りの彼の髪は、まだ少し濡れている。

いつもは、やや斜めに流している前髪がまっすぐに額にかかり、可愛らしい印象だ。

それとは逆に、白と紺の縦縞しじらの浴衣が大人の色気を引き出していて、緩い合わせ目からは、ほどよく引きしまった筋肉質の胸が覗いていた。


思わず私はコクリと喉を鳴らす。


彼の頬が赤いのは、温泉に浸かったせいだろうか。

瞳が艶めいて、私に向ける笑みがはにかんだように見えるのは、なんのせい……?


「ただいま」と前髪をかき上げながら、彼は言う。


「お、お帰りなさい」

「俺の方が先に上がるだろうと思ってたんだが……待たせてごめん」


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