エリート御曹司は獣でした
決して久瀬さんが長湯だったわけではない。

私が早かったのは、彼と同部屋であることにソワソワして、落ち着いて温泉に入っていられなかったからである。


その気持ちは説明できないので、「いえ、私もほんの少し前に戻ってきたところなんです」と嘘をついた。


湯上りの色香を漂わせる久瀬さんを見ていたら、頭の中にあらぬ妄想を繰り広げてしまいそうなので、立ち上がった私は、「なにか飲みます?」と問いかけて、部屋の隅にある冷蔵庫に向かった。

この部屋に着いて冷蔵庫を覗いた時、ビールや緑茶、スポーツ飲料など、色々と入っているのを確かめていた。


けれども、「いや、いい」と断られる。

振り向けば真顔の彼と視線が交わった。


「飲むのは、ポン酢にしよう」

「はい、わかりました……」


いよいよ、ポン酢変身体質がどうなっているのかを確かめる時が来た。

彼の浴衣姿に照れてしまう気持ちは、心の隅に追いやり、私の中に真面目な緊張感が漂う。

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