エリート御曹司は獣でした
久瀬さんの出ていったドアをまだうっとりと見つめている香織は、彼と会話しても心を乱さない私をそのように褒めた。

私も入社時には話すたびにドキドキしていたが、一緒に働くようになって三年目ともなれば、慣れるに決まっている。

彼のことは入社時から一貫していい男だと思っていても、毎度、胸を高鳴らせていては、仕事にならなくて困ってしまう。


それに対して香織は、同じ事業部であっても久瀬さんとの関わりは少ない。

彼女は第三課で、コピー用紙や商業媒体向けの印刷用紙を扱っており、私や久瀬さんとは別の仕事をしていた。


綾乃さんはというと、これまた別の第二課所属である。

トイレットペーパーやティッシュペーパー、紙おむつなど、ドラッグストアで売られているような紙商品を扱うメーカーとの取引を主な業務とする課だ。


久瀬さんとの接点が少ない綾乃さんもまた、頬を染めて、彼を間近で見た余韻に浸っていた。


「どうして毎日ときめいちゃうのかしら……。彼女になりたいなんて贅沢は言わないけど、一緒に食事に行ってみたいわ……」
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