エリート御曹司は獣でした
“少し”が二十貫……?と私は目を瞬かせる。

冗談かと思ったが、大食漢の長野さんの物差しだと、本気でそのくらいを指すのかもしれない。


「あと五、六貫くらいなら」と、食べられそうな量を具体的に言い直した久瀬さんは、言われた通りに軍艦から食べようとしている。

テーブルには軍艦専用の醤油差しが置かれていて、それを手に取り、数滴を白子に垂らすと、彼はひと口で頬張った。

それを咀嚼して飲み込んだ久瀬さんは、ビールグラスに手を伸ばす。

けれども彼の指先は、グラスに触れずに途中でピタリと止まり、なぜか驚いたように目を見開いていた。


「久瀬さん、どうかしたのかい?」


長野さんに不思議そうに声をかけられて、ハッとしたように笑顔を取り戻した久瀬さんであったが、なぜか焦りをにじませた声で問いかける。


「この醤油差しの中は、ポン酢じゃないですよね……?」

「ポン酢? いや、普通の醤油だったよ。ああ、そうか。スダチを別皿で頼んで絞ったんだ。苦手だった?」


その会話で、やっと事態を飲み込めた私も、久瀬さんと一緒に焦りだす。

そうか……スダチと醤油を合わせたらポン酢になるんだ。

果汁を絞ったところを見ていたし、自分も食べたのに気づかないなんて、私のバカ!

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