たぶんこれを、初恋と呼ぶ



 腹をさすりながら、先方の会社へ足を踏み入れる。
内装は全体的に明るい木彫で、ソファやデスクなどの家具はカラフルな物ばかり。

こんなお洒落な事務所で仕事するなんて、どんな人間だよ。

と、捻くれた感想を心の中で述べながら、若い女性社員に案内されるがままに打ち合わせ室のようなところで先方の担当者を待つ。


すぐに先方の社長と、案内してくれた人とはまた別の若い女性社員が挨拶に来た。

先に部屋に入ってきた社長は、40代後半くらいのメガネをかけた男性だった。
メガネと言ってもお洒落なメガネで、髪は上げていて、お洒落な人だがそれ故に俺にとっては少し取っ付きにくそうな人だと思った。


しかし、俺はその後の女性の声を聞いて、全ての意識を持っていかれた。

「失礼します」という女性の声に、俺は聞き覚えがあった。




「昨年に引き続き、営業はまた私が担当させて頂きます。江藤です、宜しくお願い致します」

「研究開発部からは、岩田から引き継ぎまして、今回から私が担当させて頂きます。安尾と申します。宜しくお願い致します」



会釈する為に下げた頭を上げるのが怖かった。


「彼女」だったら、どうする。
まさか、そんな偶然ないだろ。
でももし、本当にら「彼女」だったら。


「社長の真島です。宜しくお願い致します」

「今年からデザインを担当させて頂く百合川と申します。宜しくお願い致します」



百合川。

渡された名刺を見て、そんな資格ないのに、泣きそうになった。


百合川 梅。


俺が虚しく情けないくらい、ずっと忘れられなかった女の子だ。



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