結婚前夜
私は、彼を部屋に招き入れ、座る場所がないのでベッドに腰掛ける様に促した。

荷物は殆ど新居に運び入れたので、この部屋には、ベッドと机、数枚の着替えしか残っていない。

二人並んでベッドの上に腰掛けたものの、相変わらず会話がない。

いつもの沈黙だ。

こんな調子で、私達は夫婦としてやって行けるのだろうか…。

でも、沈黙を破ったのは、彼だった。

「明日から、宜しくお願いします、奥さん」

彼の言葉に、咄嗟に反応が出来なくて、私は彼の顔をマジマジと見つめていた。

『明日から、宜しくお願いします、奥さん』

本当に、この人は私を妻に迎えてくれるの…?

言葉を返せない私に向かって、ポツリポツリと話し出した。

「半年前のお見合いから、話す事は、結婚に向けての決め事ばかりで…。

優奈、君の意思を何一つ聞いてなかった。

あれがしたい、これがしたい。
何処に行きたい、何が食べたい。

全て僕が決めてしまって、君は何も言ってくれなかった」
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