契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「ほら、蒸しあがったばかりの饅頭だ。最高だぞ?」
ほかほかと湯気を立てるつやつやの生地はとてもきれいで美味しそうで、すぐに「いただきます」と手に取ったのだが。
大きく口を開けた瞬間、施設で叶夢と別れた時の最悪の思い出がフラッシュバックし、あの泥大福の味を連想してしまった俺は、饅頭を食べることができなかった。
「食べられ、ない……」
そう言って、ぽろぽろ涙を流し始めた俺に、倉田はあわててそばにしゃがみこむ。
「どうしたんだよ彰。饅頭はキライか?」
「……キライじゃない。でも、餡子が無理なんだ……。ねえお願い、このことお父さんには言わないで!」
両親が俺を息子に選んだ理由は、〝施設の中で一番和菓子を美味しそうに食べてくれたから〟だと聞かされていた。
そんな俺が、餡子を食べられないなんて知られたら……また、前の家にいた時と同じく厄介者のように扱われてしまうのではないかと不安だった。
必死に訴える俺に倉田は困ったような顔をしたが、やがてため息をつくと俺の目の前にあったまんじゅうを自分の口の中にポイっと放り込んだ。
「何があったか知らないが……俺の口からは言わないよ。約束する。ただ、この先隠し通すのは難しいと思うけどな」
「うん……」