契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
その準備のため、私と彰さん、そして倉田さんは、会場内にある食材を保管している倉庫へと足を運んでいた。
「どうしよう、緊張してお腹が空かない」
「……それはさっきお前がケーキだのエクレアだのを食い過ぎたせいだろ」
「あ、そうか。……だってパリのお菓子って美味しすぎて!」
私がおおげさに嘆いた瞬間、倉田さんの冷ややかな声が飛んでくる。
「ちょっと、そこで夫婦漫才するのやめてくれないかな? オジサン真剣なの」
「す、すみません……」
彼は、必要な食材がきちんと日本から届けられているか、手元のリストと照らし合わせながら確認している最中だ。
私は彰さんと目を合わせて〝しーっ〟と静かにする仕草をし、倉田さんの作業を見守る。
「あれ……おかしいな」
「どうした」
リストと食材を何度も見比べて首をかしげる倉田さんに、彰さんが声をかける。
「使う予定の日本酒がないんです。……届いた直後にチェックしたときはあったはずなのに」
私は、困り顔で倉庫内をあちこち探している倉田さんに尋ねる。
「倉田さん、日本酒で何を作ろうとしていたんですか?」
「パリではお馴染みのマカロンです。クリームの中にほんの少し忍ばせて、日本酒の風味を楽しんでもらおうと思っていたんですが」