上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
「いやダメだ。ここで待ってる」
こういう時の結城課長はとても頑固で絶対に譲らない。
ただでさえ今も通り過ぎる人の目が気になって仕方ないのに、これ以上長引かせたくないのもあって私が折れる形で話がまとまった。
「じゃあ、あとでな」
手を上げて優しく笑って私の元から去って行く後ろ姿を見て胸の奥が切なく音を立てる。
ずるい。
あんな顔されたら諦めきれなくなじゃない。
人通りが多くなって来る中、私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせてからオフィスへ向かった。
デスクに着くとパソコンの電源を入れて昨日の続きを始める。
昨日は疲れもあって定時で帰ってしまったけれど、それほど残してなかったのもあって1時間くらいでできあがった。
キリがいいところで飲み物を買いにドリンクコーナーへ向かい、自販機の前で何にしようか迷っていると奥の席からコソコソと声がする。
「あの人でしょ、結城課長と手を繋いでいたの」
「なんだ、普通の人じゃんね」
「シーッ! 聞こえちゃうよ!」
聞こえてますけど……。
正確に言えば手を繋いだんじゃなくて掴まれてた引っ張られていっただけで、あなたたちが思ってるような甘い関係じゃないんです。
聞こえないふりをして自販機にお金を入れてお茶のボタンを押すとガコンッとペットボトルが落ちてきた。
軽く屈んで取り上げようとした時、桐生が物凄い勢いで入ってきた。
「藤井、家から電話だ!」
桐生の様子が普通じゃないのを感じて私は急いでオフィスへ戻り自分のデスクにある電話の受話器を耳にあてる。