上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
ひとまず今夜会う約束ができたことに自然と気分が上がる。
まったく俺はこんなキャラだったか?
亜子を好きになってからというものどうも調子が狂う。
「結城? お前休みじゃなかったのか?」
背後から俺を呼ぶハスキーな声が聞こえた。
「橋本さん、おはようございます。もう用は済んだんで帰りますよ」
50代半ばの橋本さんは専務ではあるが白髪混じりの髪をオールバックにセットして、スーツの下には南国風の柄シャツを着て来るといった一風変わった人ではあるが堅苦しい感じはなく俺のよき理解者であり上司でもある。
「用がないなら少し寄っていけよ。休み取ってるのに会社に来るくらいならどうせこの後何もないだろ」
「そうですね、じゃあお茶でもいただきましょうか」
俺と橋本さんはエレベーターに乗って専務室へ向かった。
橋本専務のデスクの両端には置物用のトーテムポールが2本立っていて、その他いたるところに木彫りの怪しい面やら理解しがたい絵が額縁に入ってかざられていてとても専務室とは思えない場所だ。
「これ台湾のコーヒーだ。美味いぞ」
差し出されたカップからはフルーティな香りが漂っていて、ひと口飲むと酸味の効いた味がクセになりそうだ。
「今回は台湾に行って来たんですか?」
「あぁ、良かったぞ! 結城も休み取るなら海外でも行ってこいよ」
「まぁそうですね」
橋本さんはアジア圏のコーヒーが好きで隣県に行くくらいの気持ちでしょっちゅう出てはコーヒー豆を買って俺たちに振舞ってくれる。
「準備は進んでるのか?」
「ええ、まぁこれからですかね」
「そうか。結城がいなくなると寂しくなるな」
「橋本さんには感謝してます。と言ってもまだ半年先ですけどね」
橋本さんを見て俺は笑って答える。