上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
俺はビルの外に出て行った亜子を走って追いかけ思わず腕を掴んで呼び止めた。
「亜子、どうした?」
亜子は真っ青な顔をしてわずかに震えていた。
「母が……倒れたって……。すみません、私帰ります」
亜子の実家はたしか長野だったはずだ。
だったら移動も考えれば車で行っても変わらない。俺は連れて地下に停めておいた車に亜子を乗せ長野の病院へ向かった。
渋滞しそうな道を外れて高速道路に乗り込む。車に乗ってからずっと無言でいる亜子の様子が気にかかる。
俺は自然と亜子の手の上に自分の手を重ねた。ずっとこんな状態じゃ病院までもたないんじゃないかと心配になる。
「大丈夫か……?」
他にもっと気の利いたことを言えないのだろうか。
亜子は俺の横で涙を流しながら声に出さず静かに泣いている。安心させるつもりが結局泣かせてしまった自分を情けなく思う。
平日の昼間ということもあって地方に向かう道はスムーズに進み病院まで早めに着くことかできた。
駐車場に停めて走って向かう亜子の後ろについていくと、間ち合いの椅子に座っていた2人の男のうち1人が亜子に気づき立ち上がり駆け寄ってきた。
「亜子…………一応覚悟しておけ」
静まり返った空間に男の声が響く。
「…………イヤ」
泣きながら取り乱す亜子を目の前にして俺は何もできなかった。
気が動転して意識を失った亜子を病院側が気を利かせて部屋を用意してくれた。
待合の奥に座っていた年配の男は亜子の父親のようだった。ずいぶん憔悴しきっていた顔だ。無理もないか。
もう1人、亜子の元に駆け寄ってきたあの男には見覚えがあった。会社の前で亜子に会いに来ていた男だ。
兄だったとは思いもしなかった。たしかに亜子が車に乗ったのを見た日は実家に帰ったと言っていたがそらなら納得がいく。
だがそれならなぜ新幹線で帰ったなんて嘘をつく必要があったんだ?
「……パ…………ママ……」
「亜子」
途切れ途切れ亜子の口から親を呼んでいるみたいだが意識はまだ戻らない。