上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※
「お母さんの様子は?」
「……母はまだ意識が戻っていません。でも先生はもうすぐ覚めるんじゃないかと言ってました」
「良かったな。だがその割に浮かない顔をしてるのは何かあったのか?」
結城課長は不安そうに私を見つめる。
一層のこと全て話せたら楽なのかもしれない。だけどそんなことしたら私はきっと、誰かに寄りかかりたくなって1人で立っていられなくなる……。
「……そんなことないです」
結局強かって本心とは違うことが口から出ていく。
「結城課長は泊まったんですか?」
「あぁ、もともとこの辺に用があってな。俺はこれから帰るけど、亜子はしばらくここにいるんだろ?」
「……はい」
時折吹く春の風に、中庭の木々の葉がカサカサと音を立てている。隣に座る結城課長は私に顔を向けたまま動かない。
「亜子。こんな時に言うことじゃないのは分かってる。だけどきちんと話したいことがあるんだ。落ち着いてからでいい、その時時間を作ってくれ」
結城課長の言いたいことは分かってる。
いつまでもこのままでいいの?
「あの、今でも大丈夫です……結城課長もその方がいいんじゃないですか?」
覚悟を決めて言った私の顔を見て結城課長はきょとんとして少し考えてから口を開いた。
「……そんな簡単に話せることじゃないんだ。お互い時間がある時に話を聞いてほしい」
真っ直ぐな瞳で私に話しかけた結城課長は真剣な表情のまま「それと」と言葉を付けたす。
「何か勘違いしているかもしれないが俺は亜子が好きだ。ずっと側にいたいと思ってる。それは信じていてほしい」
思ってもいないことを言われて、一瞬意味が分からない私は結城課長から目を逸らした。