上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※




あれから半年後、例年にない猛暑の夏は過ぎて山の木々は少しずつ紅葉し始めている。
朝晩の気温はずいぶんと冷えるようになってきたけど、日中は暖かくて四季の中で私が一番好きな季節だ。


「亜子さんて何でそんなデザインが思いつくんですか?」

「私なんてまだまだだよ。それに三木くんの方がセンスいいと思う」

「そんなことないですよ! やっぱ才能って持って生まれたもんすかね? あー凹むなぁ」


対面に座っている三木君は私の書いたチェアーの画を見ながら項垂れている。
入社して2ヶ月目の三木君は私の4つ下で2年間東京で働いた後、地元である長野へ帰って来たらしい。

私と一緒にCHAINONのデザイナーであるお母さんから学びながらお互い一人前のデザイナーを目指している。

短めの髪を立たせて黒縁の眼鏡をかけている彼は少し気弱な所があるけれど、とても繊細なデザインを作ることができる人だ。
大雑把さが出てしまう私としてはすごく羨ましく思う。


私は東京の会社を辞めた後CHAINONの社員として正式に働くことにした。お母さんは退院後順調に回復していて今では倒れる前より調子が良いと言っている。


あの日会社に辞表を出して東京から帰ってきてすぐに携帯を解約した。
雅や恵菜ちゃんには結城課長に教えないようにと約束をして新しい携帯番号を伝え今でも連絡を取っている。


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