ヴァンパイア夜曲
どうやら、通信機の向こうと地形の確認をしているらしい。彼は目指すべき場所があってこの地域に来たようだ。
しかし、ここは自然しかない田舎の農村部。外から観光客が訪れるほどの名所もなければ、食べ物や骨董品などの名産品もない。
シドは小さく息を吐いて言葉を続けた。
「予想通り、ここから北にあったか。……分かった。俺は任務通り、“薔薇の廃城”の調査へ向かう。」
(!!)
“薔薇の廃城”
それは、この国に住む者なら誰でも一度は耳にしたことがある凄惨な事件を指す名称だ。
10年前。ここから北にある城には、血統に人間の血が混じっていない純血のヴァンパイアが住んでおり、力のある彼らはヴァンパイア界でも名の知れた王族であった。
そして、事件の起こったある夜。突然、城の門を叩いた男が、純血であるヴァンパイアの血を飲んで力を得ようと城の家臣たちを次々とスティグマに変え、王族を襲わせたのだ。
結果、純血の王族は皆殺し。スティグマにされた家臣たちも、血の飢えに耐え切れずプツリ、と操り人形の糸が切れたように死んでいたという。
それは長い歴史の中でスティグマが目撃された初めての事案であり、国中を震撼させた大事件であった。