ヴァンパイア夜曲
その声は、少しの曇りもなかった。
きっとローガスが目の前に現れたら、シドは迷わず引き金を引くだろう。
『…えぇ。それで十分だわ。』
ふわり、と舞い上がったナディは、そっ、と私にロザリオを手渡す。
はっ!と目を見開く私に、彼女は小さく頭を下げた。
何も言わずに消えゆく体。
私たちの目には、もう何も見えない。
彼女の姿を見失った私は、遠くを見つめるような瞳で、うわごとのようにぽつり、と彼の名を呼んだ。
「…シド…」
「ん…?」
ゆっくりと私を見下ろしたシド。
ぽろり、と、本音が口からこぼれていた。
「…私、やっぱり変わってしまったのかな。…ローガスが歪んだ理由を知って、心が痛んで…。でも、結局、私の両親と故郷を奪った彼を許せない。」
「…!」
「…私はもう、他人の罪も共に懺悔するような清いシスターには戻れないみたい。」
ーーパァァッ…
ナディが天に還ると同時に、教会を包む霧が消えた。
「…お前は間違ってねえだろ。…一点の曇りもなく綺麗な人間なんて、いてたまるか。」
そっ、と聞こえたその答えが、いつもより優しげだったのは、きっと私の気のせいではないだろう。
ぽたり。とこぼれた一筋の涙が、つぅ、と私の頰を伝ったのだった。