ヴァンパイア夜曲
“だる、コイツ…”、と眉を寄せるシドと、思ってもみないエピソードに食いつくランディ。
今さら、そのキスは恋愛感情の絡んだものではなかったことなんて言えない。
“修学旅行の夜か、お前ら。”とどこからか突っ込みが飛んできそうな状況だが、その時、ふとランディが窓の外の光景にはっ!と動きを止めた。
「あれ…?タンリオット?」
「!」
ランディの視線の先に見えたのは、遠くのバルコニーの大きな窓の向こうに立つ王子の姿。しかし、それは普通ではあり得ない。なぜなら、そこがレイシアの一人部屋だからだ。
護衛として、万が一の事態に対応できるよう、遠くから部屋を見れる場所に寝泊まりしていたシドとランディ。ふいに視界に映った“要注意人物”に、ふっ、と“従者スイッチ”が入る。
「…夜分に女の子の部屋を尋ねるなんて、見過ごせないね。まぁ、下心ってことはだいたい想像つくけど。」
「…。」
シドの考えていることは聞かなくてもわかる。不機嫌オーラがマックスだ。
今にでも部屋を飛び出しそうなシドに、冷静なランディの声が飛んだ。
「ダメだ、シド。ただの従者の僕らは自由に城へ入れない。それに、別棟から城に向かうには外を迂回する必要がある。最短距離でも五分はかかるよ。」
すると、次の瞬間。
ガッ!とシドがランディの肩を掴む。
思わず目を見開く彼に、シドは碧眼を細めて言い放った。
「お前、ダンピールだよな。」
「え?う、うん。いちお…」
「じゃあ、ヴァンパイアの真似事は出来るよな?」
「 ?」
次の瞬間。
シドの放った一言を聞いたランディは、まるでこの世の理不尽を全て被ったように呼吸を忘れたのである。
「お前、俺を担いで空を飛べ。」