ヴァンパイア夜曲
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「えーっと…。どうして、ここに…?何か話でも?」
躊躇なく部屋の中へ通した私だったが、予想以上に気まずい空気。
婚約を結ぶ時も数回しか会っていない上に、10年以上も交流のブランクがあるのだ。共通の話題すら見当たらない。
つい、耐えかねてそう尋ねると、タンリオットは胸ポケットから“あるもの”を取り出した。
「あぁ。実は、これを持ってきたんだ。」
「“通行許可状”…!」
ベネヴォリ城の国旗の紋章とともに、セオドルフ王の印と直筆サインが書かれた質の良い紙。
東の関所を通るために必要な通行許可状が、ついに完成したらしい。
「ありがとう…!わざわざ届けにきてくれたのね。」
こんな時間に来なくても明日の出立に合わせて渡せばいいのに、なんてことは言わない。
“善意”で持ってきてくれたタンリオットに笑いかけ、彼から紙を受け取ろうとした、その時だった。
ーーすっ。
ひょい、と私の手から逃れる紙。
思わず目を見開くと、タンリオットはわずかに目を細めて呟いた。
「…まさか、ただで貰えるだなんて思っていないよね?」
「へっ…?!」