ヴァンパイア夜曲

**


「えーっと…。どうして、ここに…?何か話でも?」


躊躇なく部屋の中へ通した私だったが、予想以上に気まずい空気。

婚約を結ぶ時も数回しか会っていない上に、10年以上も交流のブランクがあるのだ。共通の話題すら見当たらない。

つい、耐えかねてそう尋ねると、タンリオットは胸ポケットから“あるもの”を取り出した。


「あぁ。実は、これを持ってきたんだ。」


「“通行許可状”…!」


ベネヴォリ城の国旗の紋章とともに、セオドルフ王の印と直筆サインが書かれた質の良い紙。

東の関所を通るために必要な通行許可状が、ついに完成したらしい。


「ありがとう…!わざわざ届けにきてくれたのね。」


こんな時間に来なくても明日の出立に合わせて渡せばいいのに、なんてことは言わない。

“善意”で持ってきてくれたタンリオットに笑いかけ、彼から紙を受け取ろうとした、その時だった。


ーーすっ。


ひょい、と私の手から逃れる紙。

思わず目を見開くと、タンリオットはわずかに目を細めて呟いた。


「…まさか、ただで貰えるだなんて思っていないよね?」


「へっ…?!」

< 182 / 257 >

この作品をシェア

pagetop