ヴァンパイア夜曲
きょとん、と彼を見つめる。
てっきり、タンリオットはすぐに紙を渡して帰ると思っていた。しかし、彼は私の予想をはるかに超える一言を放ったのだ。
「…この紙を渡す前に、今一度、僕とレイシアの関係を確認しておこうと思ってね。」
(どういうこと…?)
タンリオットは、戸惑う私を見つめ静かに続ける。
「…そもそも、僕とレイシアの婚約が破棄されたのは、ルヴァーノさんの話を聞いた父が、君が薔薇の廃城で亡くなったと勘違いしたからだ。ーーつまり、君が生きているとなった以上、その契約は果たされるのが筋だろう?」
「え!」
確かに、彼の言い分は正しい。
恐らく、タンリオットの元に私を嫁がせたくない兄が、巧妙な話術でセオドルフ王を騙したところから歪みが生じてしまった。
兄は手切れ金ももらっている。…下手なことは言えない。
破棄された理由が消えた以上、今、私はタンリオットの“婚約者”なのだ。
彼は、ふっ、と笑って私を見つめる。
「しかも、レイシアは僕と婚約を結んでいたからこそ、ここに来れた。僕がわざわざ辺鄙な町に出向いたのも、父上が仕事を押して通行許可状の発行の手続きを取ったのも、城下町の宿ではなく城に泊めているのも、全部君が僕の妻になるべき女性だからだ。」
「…!」
「まさか、ここまでこちらを“利用”しておいて、今さらこの紙切れだけを持って出て行くつもりじゃないよね?」