ヴァンパイア夜曲
“お兄ちゃん”のワードが出た瞬間、顔を引きつらせたタンリオット。何があったかは知らないが、どうやら、相当苦手意識を持っているらしい。
すると、こほん…、と咳払いをしたタンリオットは、急に目を泳がせながらしどろもどろに答えた。
「わ、分かった。僕は、王の器のある心の広い男だからね。それくらいの頼みは聞いてあげるよ。」
「本当…?」
「あぁ…!る、ルヴァーノさんにも挨拶をしないといけないからな!」
よく分からないが、なんとか納得させることに成功したようだ。
このまま監禁でもされたらどうしようかと思ったが、流石にそれは考えすぎだったらしい。
無事に通行許可状を手に入れた私は、大事に鞄の中へしまい込んだ。
「…じゃあ、これで用は済んだわね。そろそろ日付も変わるし、タンリオットは部屋へ戻らないと。」
なるべく言葉を選びながら、彼を退出させようと促す私。
これ以上話す話題もないし、たいして想いもない彼と二人っきりなのは耐え難い。
ーーしかし、その時。
タンリオットは、さらり、と予想外の一言を放ったのだ。
「“部屋へ戻る”…?冗談だろう。…まさか、僕が本当に紙切れを渡すためだけに会いに来たと思ってるの?」
「え…?」