ヴァンパイア夜曲
ドキドキと鳴り止まない鼓動にそっ、と手を当てる。
偶然居合わせたとはいえ、自分のことを話したがらない彼の秘密を知ってしまったような気分になった。
もちろん、詳しいことが分かったわけではない。
ただ、彼に対する特別感が強まったような気がして胸が騒いだ。
(でも、こっそり聞くのはよくないよね。気付かれないうちに部屋に戻らないと)
…と、息を潜めて歩き出そうとした
次の瞬間だった。
「おい」
「きゃっ?!」
びくん!と、猫のように体が跳ねた。
背後から聞こえた低い声に思わず振り向くと、そこに見えたのは月光に照らされた碧眼の彼。
その表情は、いつもの数倍眼光鋭い。
「盗み聞きなんて、未だに淑女になれないようだな。レイシアおねえさま」
「き、気づいてたの…?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ」
隠し切れない高圧的な俺様オーラが滲み出ている。
はぁ、と深くため息をついたシドは、私の存在を察しながらもあえて会話を聞かせていたらしい。
「明日の朝、ここを発つ」
躊躇なく告げられた言葉に、はっ、とした。
きっと、彼は行き先も全て知った私に隠す気が無くなったのだろう。
すると、コツコツ、と私との距離を縮めた彼は、表情を変えぬまま、ぐいっ!と私の肩を抱いた。
ぐらり、と揺れる視界。
硬い胸板の感触に、っ、と息が止まった瞬間。耳元で艶のある声が囁かれる。
「だから、ライセンスは返してもらうぜ」