ヴァンパイア夜曲


返したら、彼はここから去ってしまう


そんな感情が、無意識に胸にこみ上げた。

彼の傷はもう全て塞がっている。体調面での心配はない。ましてや、特別な情を抱いたわけでもない。

ただ、彼の時より放つ強い引力に、私はまだ離れたくないと思ってしまうのだ。


「い、今は持っていないわ。前も言ったでしょう?貴方のライセンスは、私の部屋の厳重な鍵付きの引き出しに…」


するり、と背中を撫でる彼の指。

思いもよらない動きに体が固まった。

初めて服越しに感じる彼の体温。ふわりと香る彼の匂いにめまいがする。


「ふっ」


その時、彼が小さく笑った。

驚いて顔を上げると、いつのまにか彼の手の中にある一枚のカード。ポケットに入れていたはずのライセンスが、一瞬のうちに抜き取られていた。

慣れた手つきに目を見開くと、彼はくすくすと笑いながら口を開く。


「お前、案外素直だよな。嘘つきには向いてねえ」


どうして、バレたんだろう。

そんな私の心中を全て見透かしたように、彼は静かに続ける。


「俺はお前に押し倒された時から気づいてた。体に触れば、隠し持ってることくらい服越しに分かるからな」

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