ヴァンパイア夜曲
“廃城”
その言葉を聞いた瞬間。
私の脳裏に必死に押し込めていた彼の姿が蘇った。
『俺は任務通り、薔薇の廃城の調査へ向かう』
私は無意識に駆け出していた。
洗剤などを詰め込んだ買い物カゴが手から滑り落ちる。
「ねえさま!どうしたんです!?」
「ごめんミック!!私、行かなきゃ…!!」
理由を話す暇もない。
こうしているうちにも、スティグマの大群は廃城に向かって進軍を続けているのだから。
シドの通信機での会話を盗み聞きしたのは私だけ。つまり、この土地でシドが廃城にいることを知っているのも私だけなのだ。
『これからは無茶しないでね。今度は貴方を助けたりなんてしないから』
別れるときはシドの悪態に負けじとそう言い張ってみたが、私の足は止まらなかった。
あの人の鞄に武器なんて入っていなかった。いくら体を鍛えてるといえど、素手でヴァンパイアに敵うはずがない。
しかも、彼はほんの数日前まで瀕死の重傷を負っていたのだ。それもスティグマに襲われたせいで。
早く逃げろと伝えなければ。
修道院に戻ってきてと言わなければ。
(お願い、間に合って…!!)