ヴァンパイア夜曲
「はぁ…、はぁ…!」
見慣れた森を駆け抜ける。
やがて道がなくなり、人が立ち入った形跡のない草を踏む。生い茂る葉と枝をかき分け、薔薇の咲き誇る城を目指してただ走った。
廃城までの道は忘れるはずがない。
かつてあの城に住んでいたヴァンパイアが誰一人としていなくなったとしても、そこにやって来る調査員が途絶えたとしても。
私は“故郷”を忘れない。
茂みを抜けた先に広がったのは曇天だった。
ボロボロに崩れた城壁。
いびつに歪んだ門に、手入れされていない雑草だらけの庭。
ヒビ割れた大理石の床。
しかし、その城は城主を待っているかのようにそこに建ち続け、私を出迎えた数えきれない薔薇はまるでなにかの血を吸って生きているかのように深紅に染まり、咲き続けていた。
ゴクリ…、と喉が鳴る。
ここに足を踏み入れるのは十年ぶりだ。
城の扉は開いていた。
不気味なほど静まり返った城内を見た瞬間、私は言葉が出ない。
血の跡がついた壁。爪痕の残るボロボロのカーペット。
そこはただの廃墟ではなかった。
過去にどんな惨劇があったのか、一目見れば誰しも想像がつくほどの地獄絵図だ。